FITNESS SESSION 2020(第33回)テーマ

地球上の全ての生物は、重力(Gravity)と共存し、そして、利用して生きています。ヒトも誕生と共にその影響を受け 約1年間かけて、起き上がり、立ち、歩きだすまでのプロセスが、その後の全ての動きの基盤になると云われますが、 重力下における神経ネットワークの成熟と並行して、重力と釣り合いをとる抗重力(Antigravity)構造の使い方を学習 していくのです。抗重力筋(Antigravity Muscle)は、重力に拮抗して立位姿勢を保持する重要な役割を果たしますが、 抗重力筋とその拮抗筋を含め、姿勢筋とも呼ばれています。ヒトの身体はブロックの積み重ねの様な構造ではなく、 筋と骨の張力のバランスにより成り立っているので、圧縮力と張力の力の釣り合いにより自己安定する構造システム を指す建築的概念であるテンセグリティTensegrity構造であるとも云われているのです。
 
このように「身体を全体として一つ」として捉え、重力と上手に協調し張力を調整していくことが出来れば、疲労する ことなく、楽に姿勢を保つことができるはずですが、個々人の成長と共に、親の動きや環境、文化、仕事や生活習慣等、 様々な後天的要因の影響を受け順応していく中、次第に独自の動作パターンが形成されていくようになり、ある局所に 力(筋緊張等)がかかってしまう、そしてそれが身体全体に変化をもたらし、歪みを生むという事が多々起きてきます。 身体構造の基礎に矛盾した動きは、気づかぬ内に身体を壊すことに繋がっていきます。
 
そしてそれは実際に、それは日常生活の中だけではなく、本来は健康の増進のために行われているヨガ、ピラティス、 ダンス、ストレッチ、ウエイトトレーニングなどのエクササイズやスポーツを行う中でも起きている場合があります。 逆に、武術や伎芸の達人といわれる人達は、この「重み」を最大限利用し、見事なまでの身体づかいをしています。 このように、重力下における、「重み」・・床反力、体重移動、加重・抜重などを上手く扱うことは、身体に負担を かけずに楽に生活をする、ヒト本来の自然な動きのコツになるのです。
 
日常生活動作、スポーツやフィットネス、医療や介助など、あらゆる分野における指導者、従事者、施術者にとって、 重力-身体構造と動きの基礎を正しく理解した上で、全ての動きを分析し、評価・修正していく能力を高めること、 そして、適切なサポートをしていくことは、最早、必須条件であるといっても過言ではないでしょう。 第33回フィットネスセッションは、『重力 Gravity』をテーマとし、重力下での動きの原理原則を明確にし、最終的に、 個々人が、おかれた状況に適合したものに応用していき、主体性を持った、楽な動きを体現することに繋がる方法を 探求していきたいと考えています。先ず、客観的に基礎を知る、見極める、そして個に適合したものに応用し、 体感を通して動きに繋げていく・・・・・それを積み重ねていくことにより、自分に合った方法を見出し実践すること、 それが理想のFITNESSであり、そしてそれを導いていくのが、指導者の役目なのではないでしょうか?